平成30年度事業報告

歌劇「みづち」作品概要

歌劇「みづち」作品概要

1 あらすじ



―― 第一幕 ――

 今から約千年も昔のこと、とある美しい平和な村には、深い沼の底に住み、雲を呼び、雨を降らせて村に豊かな恵みをもたらし、民を見守る、水を司る伝説の神「みづち」が守り神として祀られていた。その平和な村に、異変が起こる。
 数年後、長く続く日照りにより、田畑は干上がり作物ができず、草木は枯れ果て、美しく平和な村は滅びかけていた。困り果てた村人たちは話し合い、水乞いの祭りを計画する。
 村人たちが祭りの準備をするなか、小太郎という若者が、どこからともなく現れた不思議な老人に呼び止められる。その老人は、北にある黒姫山を指さし、人間の身勝手な欲望によってみづちに異変が起こったことを告げる。はじめは迷信だと相手にしなかった小太郎も、やがて老人に説得され、みづちを訪ねる決意をする。
 愛する村を救うため、小太郎は姉の八重や村人たちに見送られ、住み慣れた村を旅立った。


 ―― 第二幕 ――

 険しい山を登る道中、小太郎は道に迷ってしまう。道案内をするという小鳥に言われるがままついていくと、そこには黒姫と名乗る女性が待っていた。
 黒姫は、みづちが人々を見守る神のような存在であり、そのみづちが、押黒族という部族に捕らえられてしまったことを小太郎に伝える。このことを聞いた小太郎は、みづちを一刻でも早く救出すべく、足早に黒姫の元を発つ。

―― 第三幕 ――

 夕月姫の部屋。彼女は空を見上げながら、美しい大地と、今は亡き母親に想いを馳せる。夕月姫は旅の途中で出会った小太郎に恋をしており、合戦に出向く小太郎の身を案じていた。
 夕月姫はみづちを救出するために必要な「水藻の衣」を織り上げていた。みづちが纏うであろうこの美しい衣を前に、夕月姫は「想う人の衣に髪を織り込むと無事に戦から戻る」という言い伝えを信じ、小太郎のために自分の髪を織り込めたらどんなに良いだろうと、秘めた想いを吐露する。
 そんな小太郎も、実は夕月姫を慕っていた。二人は互いの将来を誓うとともに、夕月姫はある決意をする。

 合戦の日。いざ出発しようとした小太郎たちの前に、髪を切り落とし、戦装束に身を包んだ夕月姫が現れる。夕月姫を含め、戦場に出て行く小太郎たち。みづちが捕らわれている岩場へたどり着くと、そこにいたのは、小太郎が村で会った不思議な老人だった。夕月姫が織った水藻の衣を纏うと、すっかり弱り果てていたみづちは、たちまち命を吹き返し、本来の姿を取り戻す。
 助け出されたみづちは、天の声として「自然の営みを壊してはならぬ。ふるさとを守り、自然を育み、この美しい地球を子々孫々まで伝えよ。人間たちが二度と同じ過ちを犯すことのないように。」と言い残し、再び沼の底へと沈んで行くのであった。


 2 主な登場人物

小太郎  この作品の主人公。鳥と会話することができる勇敢な若者。冒険の中で大きく成長を遂げる。

八 重  小太郎の姉。両親は既に他界しており、小太郎と2人で育った。

黒 姫  黒姫山にいる神秘的な女性。みづちの手伝いをしているらしい。
みづち  黒姫山の沼の底深くに住む水の精霊。雲を呼び雨を降らせる。
     人間たちを見守っていたが、押黒族に捕えられてしまった。小太郎に助けを求める。

重 藤   弓の巧みな部族の頭領。一人娘の夕月姫を溺愛しており、彼女の駄々には滅法弱い。

夕月姫   重藤の娘。小太郎に恋をしている。長い髪を持つ美しい娘だが、美しいだけではないようで…。


3 概要

平成13年に群馬県で開かれた第16回国民文化祭に向けて、脚本丹治富美子、作曲白樫栄子が担当して創られたオペラ作品。同文化祭で初演の後、新国立劇場をはじめ各地で公演。平成20年の全国高等学校総合文化祭(ぐんま総文)で高校生が公演したほか、地球環境への関心の高まりのなかで、大学などでも公演されている。

 

主人公の小太郎は旅をしながら自然の営みの深さに気づいていく。「みづち」を探す旅は、人類がこの地球上で生きていく答えを見つけ出す旅でもあった。便利さを追い求め、加速し続ける文明のあり方に、ふと立ち止り、真の豊かさの意味を問うシグナルの役割を果たすことができたらと思う。