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第3回授業研究会

 平成30年1月16日(火)、県立桐生南高等学校において普通科1年C組の生徒により音楽Ⅰ「ベートーヴェンからのメッセージ~「第九」の魅力を探ろう~」の鑑賞の授業が行われました。この日は午前中は授業研究会、午後は講演会という日程で開催されたため、講演会講師の文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官、国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官の臼井学先生に講評をいただきました。


(1)授業説明(鈴木教諭)
 今回の授業で取り上げるベートーヴェン作曲の交響曲第9番、通称「第9」は非常に有名な曲であり、生徒もどこかで耳にしたことがあるだけではなく、平和や統一の象徴といった様々な文化的・歴史的背景が基になっているものである。音楽を形づくっている要素に着目しながら、ベートーヴェンがどのような思いやメッセージを伝えたかったのかを考えられるようにしたい。生徒の授業への取り組みは素直で真面目ではあるが、自分の意見の根拠を見つけないと自信をもって発言できない生徒も多い。指示をされたことはできるが、自分で考えながら自由に取り組む場面では、消極的になってしまう生徒もいる。本題材で扱うワークシートは4枚あり、本時では前時で記述した2枚目を基にしてエキスパート活動で3枚目を記述できるようにする。ジグソー法では、1人ではなかなか解決が難しい課題に対してエキスパートを養成し、そのエキスパートが調べたことや考えたことを組み合わせていくことで課題の解決を図るものである。本時は3時間目の授業であるが、前時の2時間目で既にエキスパート活動を行っている。第1~3楽章の主題の一部が第4楽章の冒頭に演奏されることに気付けるようにするために行った活動である。本時では、生徒それぞれがエキスパートとなって分かったことを各グループで発表し、その上で第4楽章の冒頭を鑑賞し、作曲者のどのような思いが込められているのかを考えられるようにしたい。本題材の最初の時間に作曲者からのメッセージを考えた時よりも、学習を通して生徒の考えがより深まるようにしていきたい。

(2)研究協議

研究授業を観る「研究協議の視点」を研究係が提示し、各グループで1~2つの視点を選びながら協議をする。

「研究協議の視点」

〇本時の目標は達成できていたか

〇課題の質やレベルは適切であったか

〇評価の計画は適切であったか

〇主体的・対話的で深い学びになっていたか



 ・ジグソー法が新しい手法で、指導する側も面白いと感じた。鑑賞領域だけでなく表現領域まで含めて様々な学習に生かせそうだと感じた。
・授業準備が素晴らしかった。ワークシートやスライドに楽譜があり、それらを見ながら聴くことができたのがとてもよかった。ICTの資料についても、今後も継続的に使っていけるものだと感じた。鈴木先生の準備と思いにより、生徒の主体的・対話的で深い学びが生まれていた。

 ・ステップを踏んだワークシートが分かりやすく、他の楽章と同じ作りになっているので理解しやすい。
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生徒だけで主体的・対話的な授業にするためにワークシートをどう利用し、その情報をどう整理して提示するかが大切だと感じた。
ジグソー法は思い返せば昔からやっていた手法であると感じたが、楽章ごとに部屋を分けて鑑賞し、グループワークをさせてエキスパートをつくるなど、今回はその内容が非常によかった。
音源の準備が充分なされ、聴かせたい部分だけをまとめて聴かせるのは思いきりがよく、スピード感もある。
・今回の教材については4楽章のみに焦点を当てがちではあるが、1~3楽章を聴くことで4楽章がより深まる。時間はかかるかもしれないが、ここまで深くできて素晴らしいと思う。また、授業者が細かくワークシートをチェックすることで生徒が自信をもって発表することができていた。



(3)指導・助言等  臼井 学 先生
 
音楽は鑑賞すればするほどその捉え方は変わっていき、学習が深まっていく。予めその音楽について知っている知識があったとしても、新たに気が付き、発見できることがある。それが音楽の聴き方の面白さである。鑑賞する音楽は変わらないが、聴いて受け取る側が変わっていき、そうして変わっていく自分が自覚できるメタ認知の経験の積み重ねが、音楽の学び方である。学習指導案には本時の授業の発問において、作曲者である「ベートーヴェン」を主語として記述されているが、授業者の意図としてはそれを「あなた」という生徒自身を主語に置き換えているということが伝わってくるものであった。鑑賞で感想等をまとめる活動では、例えば音楽を鑑賞しなかったとしても、作曲者の背景や音楽の構成などこれまで授業の中で指導された文字による情報で知り得た知識で記述できてしまうこともある。そうした知識を知った上で、生徒自身である「あなた」の聴き方はどのように変わったのかを考えられるようにしなければ、その音楽を他人事のように聴いてしまうことになる。作曲者「ベートーヴェン」からのメッセージだけではなく、それを受け取った結果として「あなた」はどのように考えるのかを最後に記述するというように、主語をそれぞれの学習場面に応じて選びながら発問していくということも大切である。授業展開においては、生徒が自分の鑑賞した楽章を1分ずつ他の生徒に説明するという場面でジグソー法が使われていたが、それを含めて後にその楽章を全体で鑑賞する場面までをジグソー法を取り入れた学習と考えるとよい。
最後に生徒が記述した意見を見ると、「歓喜」というものの質が変わっていくことが分かり、そこがこの授業の素晴らしい点である。冒頭でも述べたが、作曲者の背景などの情報を詳しく伝え過ぎてしまうと、そのことを基に感想を記述してしまう生徒や、それだけで終わってしまう生徒もいる。鑑賞した結果「あなた」はどのように考えるのかということを生徒が意識できるようにしてほしい。