平成30年度事業報告

事業報告

平成30年度 第1回 授業研究会

平成30年6月22日(金)、県立沼田女子高等学校において普通科英数コース1年1組の生徒により音楽Ⅰ「イタリア歌曲の特性や旋律の美しさを感じ取って、歌唱表現を工夫しよう」という題材名で歌唱の授業が行われました。


(1)授業説明(斎藤教諭)

本題材で扱う「Caro mio ben」の歌詞の内容は、まだ高校生にとっては理解することが難しいかもしれないが、興味をもてるものであると考える。楽曲の構成も分かりやすいため、難しさと楽しさとを両立とも味わいながら歌唱表現できるように指導していきたい。

1学期は歌唱の授業を行っており、日本語の歌詞の楽曲に応じた発声法などを指導した。それを基にして、外国語の歌詞の楽曲に触れた生徒が、どのようなところで学習の深まりを感じているのかを見て頂きたい。特に本時では、歌詞の内容と旋律の動きを歌唱表現につなげ、生徒の学びがより活発に、そして深まるように指導をしていきたい。


(2)研究協議
 研究授業を観る「研究協議の視点」として、3月に告示された次期学習指導要領を踏まえて次の4つを提案する。「見方・考え方」と「資質・能力の3つの柱」については参考資料にも目を通してほしい。研究授業後の授業研究では、各班で1~2つの視点を選んで協議を行ってほしい。

1.課題の質やレベルは、本時の目標を達成するために適切であったか

2.本時の展開は、主体的・対話的で深い学びになっていたか

3.生徒は、音楽の「見方・考え方」を働かせていたか

4.評価の計画は、「資質・能力の3つの柱」と関連していたか


〇班別協議の内容例

・各ペアでの話し合いがしっかり行われていた。

・歌詞の内容と旋律の動きの関わりに着目して、お互いが意見を出し合いながら考えていた。

・ペアで工夫した歌唱表現を、クラス全体で共有する時間があるとより学びが深まった。

・ただ発声するのではなく、「喜怒哀楽」の表現で発声することでその後の歌唱表現につながっていてよかった。

・旋律の動きとその特徴を捉えさせるために、他の曲(教員が作曲したもの)を比較させたのが分かりやすかった。

・ペアで考えた後、全員で歌う際に「表現は自由」という声掛けを行うと一人ひとりがより自由に伸び伸び歌えるかもしれない。

・本時の目標に合った導入が行われていた。

・話し合うための楽典的な知識が身に付いていた。

・歌唱表現をペアで考える際に、旋律重視、歌詞重視で分けて考えていたペアがあったので、違うペア同士での意見の共有があるとより深い表現が考えられた。

・歌う時に譜面台を使うと、歌う生徒は下を向かず、他の生徒はワークシートを見ることができるのでよいかもしれない。

・2人で机を1つ使うことによって、話しやすい雰囲気が生まれており、教員も間に入りやすく机間巡視がしっかり行われていた。

・比較するもう一つの旋律を教員自身でつくられていたことがよかった。

・旋律の動きを指でなぞったときに、リズムによってなぞり方が変化してしまっていたので、リズムをなくして音程だけに着目させると分かりやすかった。

・ペアごとの発表や振り返りの場があると、学びが深まった。

(3)指導・助言等
①島田 聡 先生(群馬県教育委員会高校教育課指導主事)

「喜怒哀楽」と関わらせた発声練習により、授業の導入から生徒が自然に笑顔になっていた。その後も、斎藤先生の声掛けに生徒は笑顔で反応していて、温かい雰囲気が授業の最後まで続いており、このような人間関係が授業においては重要だと感じた。また、音楽室に来ると笑顔になれるということが、精神面だけでなく技能面にもつながっており、笑顔で歌うことで、歌唱するために必要な表情筋を生徒は無意識に使えていたと考える。しかし、生徒が無意識であるからこそ、生徒同士で向かい合って発声した時、指導者が「よい笑顔で歌えている、これが発声の基本だ」などと価値付けし、意識化する必要もある。「喜怒哀楽」を表現する発声練習はとても効果的で、例えば「で悲しみを表現」するというのが、楽曲の歌詞の「Cessacrudel」につながると感じた。
 本時の展開では、斎藤教諭が生徒に示した本来の旋律とは異なる「Caro mio ben」の旋律の味わいを手掛かりにして、本来の旋律の音の動きと歌詞の感情とを関わらせる学習から始まった。そのために、手の動きで旋律の音の動きを表現するように指導していたが、楽譜から読み取ることに比べて、より音の動きが可視化され、実感的に理解しやすい手立てであったと感じた。二つの旋律の働きの違いをより明確に理解させるためには、例えば、ペアで同時にそれぞれの旋律を歌い合って手の動きを比較していくことで、歌詞の内容に対する旋律の動きの違いを感じ取れるのではないだろうか。

 二つの旋律を比較した後、斎藤教諭が示した旋律について「Caromio benの感じがない」と生徒とともに確認をしたことが、生徒が本時の学習課題を確かにもつことにつながった。学習指導案では、その部分が発問として囲みで示されており、本時の目標がここに集約されていると考える。この発問は、学習指導案に示されている目標よりも、生徒の実態に即して、旋律の動きと歌詞が表す感情との関連を学習の視点として分かりやすく表している。このように、生徒とともに学習課題を確認し、それが端的な言葉で確認することが大切であると感じた。
 授業の前半は、旋律の動きと歌詞の内容とを関わらせていたが、後半のペアの学習は強弱に焦点が当てられ、その土台となる旋律の動きと歌詞の内容との関連は、生徒の意識からやや薄れてしまったように感じた。そのためにも、生徒の発言を板書していくことが必要であったと考える。「Caro mio ben
」の本来の旋律と斎藤教諭が示した旋律の違いなどについて、生徒が感じ取ったことを板書で整理していくことで学びの過程が視覚化され、本時の前半と後半の学習をつなぐものとなり、強弱の工夫を考える上での重要な根拠となると考える。
 強弱の工夫を2パターン考える学習活動は、生徒にとって表現の可能性を広げるという点で非常に有効であった。生徒は、実際に歌いながら、まず自分の中で楽曲に最もふさわしいだろうという強弱の工夫を考える。その後、その工夫と逆の表現や全く異なる表現で歌ったり、それらを比べたりする中で、最初に考えた強弱の工夫によって、自分がイメージする「Caro mio ben」が表現できているか?について吟味する。他者の表現を聴いて自分の表現を追求するという学習でなくとも、自分の中に異なる考えを複数もつことで学びが深まるという、自己との対話的な学びである。強弱の工夫自体には唯一の正解はないため、このような活動を取り入れることで、旋律の動きや歌詞の内容をよりどころに音楽における表現の多様性に触れる学習となった。

 最後に、強弱を工夫する場面で生徒から「教科書と同じになってしまう」あるいは「逆になってしまう」という発言があった場合、指導者としてどんな答えを返すかを参加頂いている先生方全員にお考え頂きたい。生徒が自分の判断に確信をもちたいが、それが出来かねている時、何をどのように伝えるのかは、これからの教師にとって非常に重要である。答えは一つではなく、それぞれの場面や生徒との関係性によって様々であり、多様な表現を認め合う音楽という芸術であるからこそ、その指導者として用意しておきたいことであると感じる。

②上田 裕信 先生(群馬県高等学校教育研究会音楽部会副部会長)

発声練習の際の「喜怒哀楽」の表現の中で、「楽」の時に声を自然に出しやすいと感じている生徒が多い様子が見られ、普段から安心できる環境で授業を受けられているといことが伝わった。自己表現のために人は想いを言語化するが、それでも感情を伝えることは難しい。しかしその感情は、音楽に乗せて歌唱することで他者に伝えられるということを実感できる授業であった。芸術科の授業の単位が少ないことが危惧されているが、芸術科、特に音楽の授業での可能性を今後も示してほしい。

 

③清田 和泉 先生群馬県高等学校教育研究会音楽部会副部会長)

斎藤教諭と生徒との関係が大変良好で、とてもよい雰囲気の授業だった。生徒は笑顔で授業を受けており、本当に楽しんでいることが伝わった。

授業の中で「音が高くなるとテンションが上がる」や「音が低くなると悲しい感じになる」など、自然と音楽の知覚・感受と日常生活とを関わらせる言葉を生徒に投げかけていたことで、生徒のイメージする音楽の形と感情との関係がさらにインプットされると感じた。また、それに関連して思考・判断する場面が豊富でよかった。

本時はまだ4時間目ということで、実際の表現に結び付けるにはまだ早かった部分もあるが、これから思考・判断したことと表現とを一緒に深めていける指導を展開してもらいたい。

 

④大熊 信彦 先生群馬県高等学校教育研究会音楽部会副部会長)

歌詞の内容、旋律の音のつながり(音高やリズム)、強弱を関連付けて、歌唱表現を工夫する授業だった。特に、旋律と強弱が生み出す音楽の質感に生徒自身が向き合うという点で、音楽の授業の本質を感じた。音楽が醸し出している質感に生徒を向かわせるための工夫が授業の中にたくさんあった。

次期学習指導要領では、「感性を働かせて、音楽を自己のイメージや感情と関わらせる」ことが強調されている。また、知識や技能を土台とした思考力・判断力・表現力を基に、音楽を形づくっている要素を知覚し、それらの働きを感受しながら学びに向かう力を身に付けることが大事になる。音楽という教科の本質は、音楽が醸し出している質感の言語化を試みたり、友達と対話したりしながら、生徒が音楽の質的な世界を感じ取ることで心を豊かにしていくことである。そのことがよく行われている授業であった。

授業では、例えば、高い音に向かってクレッシェンドしていくのは歌いにくいが、それでも、そのように表現したいという必要性を感じて技能を高める過程が大切である。クレッシェンドと書いてあるから次第に強くした、ということでは何も伝わらず何を表現したいのかも分からないが、「ここはどうしてもクレッシェンドしたいので、それができるような技能を身に付けて歌いたい」という思いをもって歌った歌は、聴き手にもその思いが伝わり、自分の音楽を表現した価値のあるものになる。本日の授業はそれを実現するという意味で、とても示唆に富むものであった。

⑤清水 郁代 先生(群馬県高等学校教育研究会音楽部会長)

広い空間のあるよい環境の音楽室であるため、それを上手く活用することでさらに生徒の活動の幅も広がり、意見交流もより深いところまで触れられるものになったと感じた。生徒が楽しいと思えていたのは事実ではあるが、生徒の学びがどこにあったのかということも考えてほしい。

生徒は指導する先生をよく見ている。言葉遣いやイントネーション、表情まで一つ一つ注意をする必要がある。いつも笑顔で授業をするということは難しいが、音楽は「音が楽しい」と書くので、先生自身は個人的な感情は塞ぎ、生徒が先生を見た時に「頑張ろう」というエネルギーの源を与えられる存在であってほしい。

また班別協議も活発であり、今回のように班別協議で出された意見を用紙にまとめて印刷し、直接目を通すことで、出席された先生方の貴重な財産になる。その他、学習指導案は生みの苦しみがあるが、今回のように左右見開きの2つを比較して、どのように変化しているのかをもう一度確認することで、作成の大変さも共有しながら先生方の今後の授業づくりに役立ててもらいたい。

音楽の教員は1校に1人であることが多く、自分で授業を振り返って課題を見つけたり客観的に捉えたりすることが難しい。そのため、こうした授業研究会にこれからも積極的に参加し、他の先生の授業を見させてもらう中で自分の反省点を見出してもらいたい。

(4)参加者(敬称略)

清水 郁代(吉井)    清田 和泉(吾妻特支)  上田 裕信(太田東)  大熊 信彦(太田女子)

島田 (高校教育課) 塚田 孔右(太田工業)  兒玉 理紗(高崎女子) 勝山 英城(万場)

住谷 (前橋商業)  東  喜峰(県立前橋)  川上 寛子(玉村)   黒岩 伸枝(高崎)

松平 康子(尾瀬)    富岡 恵美(安中総合)  五十嵐桃子(長野原)  橋詰 詩織(太田女子)

藤嶋 啓子(関学附)   須田 諭美(吉井)    戸松 久実(吉井)   野口 瑞穂(大間々)

秋元 麻美(渋川青翠)  車﨑 優香(県立伊勢崎) 井上 春美(藤岡中央) 小川 唯佳(利根商業)

木部 (太田フレックス)伴野 和章(太田東)   引田 麻里(市立太田) 角田 幸枝(榛名)

斎藤真里奈(沼田女子)  坂本 (館林女子)